第8回ビッグ・バンド・コンサート
●7月2日 東京・芝郵便貯金ホール
●出演=法大ニュー・オレンジ・スイング 中大スイング・クリスタル 明大ビッグ・サウンズ・ソサエティ 慶大ライト・ミュージック・ソサエティ 日大リズム・ソサエティ 早大ハイ・ソサエティ 慶大KMPニュー・サウンド 6大学ピック・アップ・オーケストラ
東京6大学ビッグ・バンド連盟が主催する、第8回目のビッグ・バンド・コンサート。この連盟は各大学のバンドの横のつながりを深くし、学生ビッグ・バンドの興隆のために9年前に結成されたもので、加入しているバンドは、学生ビッグ・バンド界でもリーダーシップをとっているといってもよいほどの実力のあるバンドばかりである。コンサートは各バンドがもちまわりで理事校(当番校)になって年に1回開いている。当日は小雨がパラパラとふる典型的な梅雨の日だったが、会場は満員。プロのバンドがコンサートを開いてもなかなか満員にならないものだが、おの盛況ぶりはたいしたものだ。毎年このコンサートを開くと、その年の学生ビッグ・バンドの傾向というものがわかるものだったが、今年はそれがまったくわからないのだ。つまり各大学の個性がはっきりと出てきているのだ。
徹底的にエリントンとベイシーでせまったのは中央。30年の歴史をもつこのバンドは<A列車で行こう><昔はよかったね><リル・ダーリン>などを演奏したが伝統的なものに対する真摯な態度は好感のもてるものだ。慶大KMPもクラーク~ポラーンの曲を中心に落着いた演奏をしたが、デューク・ピアソンの難曲<ニュー・ガール>にも挑戦していた。本年度理事校の法政は一昨年から山木幸三郎のペンになる曲をとりあげているが、現在までに40曲ほどになっている。この日も<スイート・ハート・ブルース>と<ラスト・タンゴ・イン・パリ>を演奏した。この<ラスト・タンゴ>がガトー・パルピエリの作曲した映画音楽として有名だが、慶応ライトも前田憲男のアレンジで演奏し、その編曲の違いが興味深かった。2,000をうわまわるレパートリーをもつライトはこのほかにデオダートの<ツァラトゥストラはかく語りき>をやるかと思えば、メルパ・リストンの<ジプシー>(クインシー・ジョンズ編曲)やベイシーの古いレパートリーをひっぱり出してきたりで、なかなかバラエティに富んだ楽しい演奏だ。日大リズムは前身がラテン・ビッグ・バンドだけあって、6大学の中では特異なバンドだ。マロ(サンタナの実弟のラテン・ロック・バンド。現在は解散してしまっている)の曲やザ・サードの<ハレ・クリシュナ>を演奏したが、パーカッションを効果的に使っていた。明治は今年トロンボーン・セクションが充実しているのか、J.J.ジョンソンの<リトル・デイブ>のほか、ウディ・ハーマンの<フォー・ブラザース>のサックス・ソリをそのままトロンボーン・セクションで演奏。スーパー・サックスならぬスーパー・トロンボーンといったところ。早大ハイソは今年3月のリサイタルでやったオリジナル<パートⅠ、Ⅱ>をとりあげて熱演したが、圧倒的なサウンドは群を抜いていた。
ラストはこのコンサートの名物ともなった6大学のピック・アップ・バンド。各バンドの4年生を中心にこのコンサートのために臨時に編成する、いうなれば大学オールスターズといったバンドだ。ソロはもちろんのこと、全体のアンサンブルも例年になくまとまっていて、山木幸三郎の<Song For The Bearded Lady>と<Manteiv>(この曲名はベトナムVietnamを逆にしたもの)を演奏した。
この日出演したバンドの中にはプロのバンドにせまるほどの演奏をしたり、ジャズに関しては、ひょっとしたらプロのバンドにはない何かがあるんじゃないだろうかという感じもするコンサートだった。
『スイング・ジャーナル』1973年9月号、216-7頁。
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