メイナード・ファーガソン
久しぶりにビッグ・バンド・ジャズの醍醐味を味わった。というのは日本へはこれまであまり青年期のビッグ・バンドが訪れるというチャンスがなかったからである。なにもそれはバンド・リーダーが若いという意味ではなく、バンドそれ自体の若さのことである。その意味ではちょっとバテ年に来日したバディ・リッチ楽団を思い起こさせる。ウディ・ハーマン楽団もスタン・ケントン楽団も、全盛期の来日ではなかったし、エリントンもベイシーも60年代の来日で、青春期のバンドではないので円熟した味や大人の風格を楽しませてくれるという演奏であった。しかし、ファーガソン・バンドは違う。現在のバンドはせいぜい4年程前にできたばかりでバンドとして青春期なのだ。だから、バンドに勢いというものがある。
バンドは昨年とはメンバーがかなり変わったにもかかわらず、バンド全体はよくまとめており、リーダー自らが汗をかいて演奏してメンバーに手本を示すという行き方がメンバーにもやる気を起こさせ、全員のエネルギーの爆発が、ビッグ・バンドの楽しさを満喫させてくれた。しかし、今回のファーガソン・バンドのようなパンチとドライブ感はビッグ・バンドなら当然もたなくてはならないものであり、往年のケントンやハーマン楽団も全盛期の40~50年代には当然この位の音はもっていたはずなのだ。ファーガソン・バンドではなんといってもトランペット・セクションが抜群で、これは現在のビッグ・バンド中最高だ。リーダーがラッパにはうるさいからだろう。ついでバリトンとフルートのブルース・ジョンストンがソロイストとしてとくに優れている。
演奏は以前にくらべオーソドックスなものが多くなったが、しかし、若者を楽しませるロック・ビートの曲<カメレオン>(ハンコック作)<マッカーサー・パーク><ヘイ・ジュード>などを演奏、ハンコックの曲ではブラック・ロック的感覚さえみせた。ぼくはやはりこういったロック・ビート曲が好きだが、<レフト・バンク・エキスプレス>、フォックス・バンド><ギブ・イット・オン>なども迫力があり、ニコルソン、ソマーズといった若手トランペッターのソロもなかなかのききものだった。ゴスペル調の<ガット・スピリッツ>を演奏したり、ファーガソンと若手のトランペット・バトルを用意するなど見せ場とショウアップも忘れず、最後まであきさせぬ変化にとむ演奏をきかせたのはさすが年期の入ったリーダーだといえる。ファーガソンの超高音トランペットもまだまだ衰えをみせていない。(岩波洋三)
『スイング・ジャーナル』1974年7月号。
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