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今回のカレッジ・ビッグ・バンドLP大作戦に、慶応・早稲田と共に 法政のニュー・オレンジ・ジャズ・オーケストラ が選ばれたのは、このバンドの優秀なジャズ感覚をプロデューサーが見抜いたからである。
すでに、法政大学には戦前からジャズ研究の伝統があった。その伝統は生きている。
その結果、ニュー・オレンジは山野ビッグ・バンド・コンテストで、第5回の初めてコンテスト型式になった時、ジョン・コルトレーンの名作をビッグ・バンド化した作品でスイング・ジャーナル社賞を受け、第7回には敢闘賞(オリジナル作品を取り上げた意欲に対して)を受けている。
OBでは無いが、そのコルトレーンを手がけた頃から、宮間利之とニュー・ハードを師とし、同楽団のチーフ・アレンジャーの山木幸三郎のペンになる作品をニュー・オレンジのカラーとして来た。
しかし法政には、このようにジャズを芸術として深く研究するバックグラウンドがあったのである。
それをちょうど、法政の野球部に例えて見よう。今日、世紀の悪役となった昨年卒業の江川卓投手なら誰でも知っている。
広島の山本浩二ミスター赤ヘルと、阪神から西式ライオンズへ移った心機一転の田淵幸一が、日本ハムの富田勝と共に同級生であったことも知られている。
この他にも阪急の長池や、ロッテの新星袴田、大洋の長崎、阪神の江本、植松、巨人の島本など法政野球部が生み出した選手はプロに沢山いる。(これが今のニュー・オレンジに当る。)
その伝統は、古くは若林投手、鶴岡親分、現監督根本から解説の関根と受けついで来た人が居るからであって、これは法政野球の伝統と言うべきであろう。
まだ時の政府によってジャズ音楽が禁止されていた頃、法政の学生を中心として一つの歴史的なバンドが生れた。
このバンドは「Luck And Sunオーケス卜ラ」と命名され、ダンス・パーティ等に出演したりした。ラック・エンド・サン、これをみじかくしてラカンサンと発音し、“ラカンサンがそろったら踊ろうじゃないか”………と言う相言葉を用いてスイングしたと言いつたえられている。
戦後、ブルーコーツの前身の遠藤勲とオルフェアンズのドラマー遠藤氏、戦前からあるコロムビア・オーケストラの指揮でベースの渡辺順氏、それに現在ホテル・ニューオータニのダンスバンドをひきいている、オールド・ボーイズのベース小原重徳氏などは、この法政の戦前・戦中派で、日本のジャズ史の中のずっしりとした礎石の一つであることはまちがいない。
そんなわけで、ニュー・オレンジには、そう言う先達の血が流れていると感じた。 ニュー・オレンジの諸君の進取の気風は常に高く評価してきた。
しかし、それは戦前から、ジャズを音楽として愛し、はぐくんで来た幾多の先輩の伝統をついだものである。
今回の吹き込みに当った現役諸君は、そのような事実関係は知らないかも知れない。だがこれは大切なことだ。
私自身も山野のコンテストに登場する度に、ニュー・オレンジの独自のカラーと言うものに非常な感銘を受けていた。
今回のレコーディングに当っても、スティーヴィー・ワンダ一、ジャニス・イアン、ウディ・ショウと言う、現代若人のアイドルとも言うべき音楽家のレパートリィを、山木幸三郎がビッグ・バンド・ジャズ曲として編曲した。
法政らしい伝統をひしひしと感じる選曲である。
同時にB面には山木のオリジナルで、日本的素材を6楽章にわけて奏する一大組曲が取り上げられた。
その意欲たるや壮としなければなるまい。川崎リポートによると「学生バンドとしては驚くべき演奏」がくりひろげられているそうだ。
演奏ラインナップは下記の通り。
(トラムペット)
高木勲美、宮本欣治、太田延幸、黒田啓
(トロムボーン)
山崎靖幸、鴨井厚二、佐野寿之、嶋田佳起
(サキソフォーン)
関英雄、渡辺泰敏、羽根川昇、鈴木孝宏、阿部健一
(ギター)
山崎隆
(ピアノ、電気ピアノ)
阿部紀彦
(ベース、電気ベース)
青柳能明
(ドラムス)
絹田治幸
上記の内、ベースの青柳君がパンド・リーダ一、リード・アルトの関君がコンサート・マスターをつとめている。
合奏もソロも法政らしさにあふれている所が良い。
(山木幸三郎について)
通称を「パパ」と言う。但しジャズに取り組む精神は極めて若い。
1931年4月18日に東京で生れた彼は、千葉県立市川工業高校を出ると、ギター奏者としてプロ入りした。
戦後間もなく、楽器さえあれば仕事にありつける時代だが、弱冠20才で宮間利之の下へ入るまでは、コムボのギタリストであった。
筆者の記憶では山本広路とシャムペン・セレナーダスとか榎島靖起とリズムメイツ時代の山木の元気な姿が印象的だ。
有楽町のコムボと言うジャズ喫茶で、秋吉敏子、松本英彦などと初期のモダン・ジャズのレコードをよく聞いたものだ。
山木のすばらしい才能はギターに発し、作編曲で開花した。ニュー・ハードが日本一のビッグ・バンドに成長し、世界のジャズ・フェスティバルで成功する因は山木のペンに負う所が大きい。
個人的に言えばガレスピー楽団のコピーは私がすゝめたもので、ニュー・ハードのビッグ・バンド・ジャズへの第一歩だった。山木の作・編曲のすばらしさについてはあえて余計な言葉は不要であろう。
一口で言えば、私の一番好きなコムポーザーである。
宮間さんとの楽旅で司会者の私に酒の味を教えた悪友でもある。いつまでたっても最高の友達だ。
演奏曲目について
1. ハイアー・グラウンド
ご存知、スティーヴィー・ワンダーの曲を山木のペンによって、カウント・ベイシィ的な作品に仕立て上げたもの。
リズム・セクションのみのテムポ設定があって、テーマをトロムボーン・セクションのソリを中心に示す。ソロはピアノ、トロムボーン、トラムペットで、仲々の好演である。
2. アット・セブンティーン
ロマンティックでフレッシュなジャニス・イアンの施律をアルトを中心にした演奏で聞かせる。
全体を口当りの良いボサ・ノパ・リズムで統ーしている。
エレクトリック・ピアノ、アルト共によく唄って居り、バックのアンサンブルもよくコントロールされて美しい。
3. ザ・ムーントレイン
昨年のダウン・ビー卜誌人気投票で、トラムペット部門のポール・ウィナーとなったトラムペッタ一、ウディ・ショーのオリジナル。
山木の得意なプラス・アンサンブル・アレンジも巧緻をつくし、その間にピアノ、アルトのソロもフィーテュアされ、エンディングに一寸としたドラム・プレークが聞かれる。
全体によくスイングしている。
4. 妖怪河童等今日何処棲
山木幸三郎のオリジナルで、タイトルの示す通り、河童を画いた劇画風組曲で、ユーモアとペーソスがあり物語を追ってゆく楽しい作品だ。
しかし演奏には相当な技術を要する作品で、実によく練習して美事な成果をあげている。
第1章 河童渡来の地
ドラム・ロールでスタート、宮本君のトラムペット、山崎君のトロムボーン、関君のソプラノのソロ。
第2章 黙秘の夜旅
ピアノとドラムスのソロは阿部と絹田の両君。
第3章 亡霊の沼
ソプラノのソロは関君、テーマの卜ロムボーンは山崎君。
第4章 奥儀伝授式
トロムボーンのソロは山崎君、仲々豪快である。
第5章 ネネコの泣節
トラムペット・ソロは太田君、よく唄っている。
第6章 戦勝祝ひ唄へ新国歌
ドラム・ソロは絹田君。
☆ ☆ ☆
今回の東西6大学のカレッジ・バンドのLP大作戦は、近年日本のジャズ界でビッグ・バンド・ジャズが愛好されている傾向と、学生バンドの成長が著るしい所から生れた意義深い企画である。
すでにスイング・ジャ一ナル誌でも紹介されている通り、純心な学生諸君の演奏はキングのすぐれた録音によってLPとして記録された。
この1枚を手にされた方が、他の5枚も是非手にして項きたいと切望する。
監修の瀬川・児山両氏、山野社長はじめこのすばらしい企画にご援助頂いた関係者に心からの感謝を捧げて筆を置く。
(いソノてルヲ)
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