第18回山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト
今年で18回目を迎えた恒例の学生ビッグ・バンド界の祭典「山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト」が、今年も去る8月15、16日の2日間、東京・日本青年館で盛大に開催され、全国各地から出場した40バンドが日頃の練習の成果を競った。ここでは、今年の同コンテストの成果を展望してみよう。●瀬川昌久
山野楽器主催の大学バンド・コンテストも早18回目を迎え、全国から集まる全40の学生ビッグ・バンドにとって、まさに夏の甲子園高校野球のごとき年中行事のハイライトとなった。多くのバンドが大会の日程に合わせ、8月上旬に猛烈な合宿練習を行って最後の総仕上げをして大会に臨む。この大会が学生バンドの活動に刺激を与え、技術向上に役立っている点は測りしれないものがある。各バンドのレベルは年々向上し、実際今年の上位5校の間には、演奏技術上の格差はほとんどなくなっており、優劣を決める基準は、その実力をいかに効果的に発揮して感銘を与えるようなサウンドを聴かせるか、というプログラミングの問題にかかっているといえよう。
その意味で演奏曲目の選定が極めて重要であり、さかのぼれば、各バンド自体の演奏スタイルをどこに置くか、という問題にもつながってくる。
ビッグ・バンドのサウンドが歴史的に大きな変化を遂げ、多様化しているように、最近の学生バンドの演奏スタイルも、実に多岐にわたっており、この数年間を回顧しても、30年代のスイング・スタイルからカウント・ベイシーまでを右寄りとすれば、50~60年代のウディ・ハーマン、スタン・ケントン、メナード・ファーガソン、バディ・リッチ、ルイ・ベルソンあたりが中間、そしてやや左寄りに70年代以降の秋吉敏子や新しいアレンジャー、ドン・メンザ、ボブ・ミンツァー、ロブ・マッコーネルらが位置し、さらにギル・エバンス、ウエイン・ショーターらの作品を素材とし、ロック・リズムやフリー・フォームを取り入れたコンテンポラリーなサウンドが最左翼ということになろうか。
従来の一般的傾向として、上位数校は中間から左寄り、中級以下のバンドにはベイシー指向が圧倒的に多かったのだが、本年の特色としてはベイシー作品が減り、新アレンジャー達の作品が増えた。おそらく彼らの市販されたスコアがアメリカでも学生バンドに広く採用され、日本にも輸入されているからだと思われる。確かに新しいアレンジャーのサウンドは非常に分厚いハーモニーを使い、格好が良いので若い人好みかもしれないが、どうも聴いてあまり面白くない作品が多い。その他、日本のアレンジャーに依頼した曲も増えてきたし、組曲的なオリジナルに挑戦するバンドもあった。またホルンやチューバを加えたギル・エバンス的編成を試みたバンドも2校あった。
結論を言うと、初めてのオリジナル作品をやるのは、よほど手がけ慣れて自信がない限りは危険であり、仮にうまく演奏できたとしても作品そのものが面白くなければ損をしてしまう。優勝を争った慶応ライトと国立音大との差はそこにあったと思う。電化音やロック・リズムの導入については、アレンジの良否がより死活問題であり、同志社大の奮起を期待したい。楽器編成はなにも伝統にこだわる必要はなく、ギル・エバンスやスタン・ケントンを指向するバンドが2~3あっても良く、ただそれだけの効果のある新サウンドが出るよう編曲を吟味する必要があろう。
ビッグ・バンドの成否を決定するリズム・セクションは、総じてドラマーが良くスイングするようになってきたと思う。アンサンブルやソロの演奏技術については、内堀勝氏個別に論評される予定だが、日本のジャズが圧倒的に劣っているホーン楽器は、アメリカの学校のように音楽インストラクターの欠如した日本の致命的分野で、各楽器別のクリニックがもっと系統的に組織される必要性はますます増えていると思う。
最後に、エンターテイメントとして京大30年代ベイシー楽団のラジオ放送、3分間芸術の枠をソロを含めて見事に再現した努力と機知に改めて賛辞を送りたい。前年に引き続きゲストで来日したモンタレー・ハイスクール・バンドの演奏が少年ながら基礎を踏まえた素晴らしい演奏であったことも付記しておきたい。
『スイング・ジャーナル』1987年10月号、62-3頁。
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