24th YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST
年に一度の《山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト》。今年で第24回を数えるこのコンテストは、全国ビッグ・バンドにとって、いわば高校野球の甲子園のような一大祭典。出場すること、出場回数を重ねることが彼らの一つのステータスともなっている。去る8月7、8日、東京・日本青年館大ホールへの出場校は全45校。各々の演奏持ち時間はわずか15分、演奏直後に審査員から、時には厳しいコメントやアドバイスをうけながらも、彼らの汗と涙と喜びに満ちた青春の確たる1ページがそこにはあった。以下は審査員の一人として両日のすべてを見聞した上田力の寸評レポートである。 ●写真=鈴木和雄
15分に賭けた青春
全国45大学が競い合った《第24回山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト》- ●上田力
今回の最優秀賞は早稲田大学ハイ・ソサエティ・オーケストラ(以下Oと略)、慶応義塾大学ライト・ミュージック・ソサエティという2校の受賞となった(受賞校一覧は本号105頁)。これは審査員(10名)の評点が全く同点となってしまったための特例だが、両校の演奏内容は、それぞれの伝統と個性をフルに発揮しながらの、まさに甲乙をつけ難い水準をキープしたものだった。モダン・ベイシー・ナンバーの完璧な演奏という昨年までのラインを鮮やかに踏み越えて8ビートの導入から〈オレオ〉のスペシャル・アレンジなどで胸のすくような独自のクオリティの高さを証明しきったハイ・ソサエティ・O。そしてアレンジが要求する多様な場面転換の表現の必要度に応じて、どのようにも有効に鳴りきるホーン・セクションを擁したライト・ミュージック・ソサエティの音楽性は、学生という枠を超えてビッグ・バンドの現在の水準と可能性を明るく象徴したものといえる。優秀賞2校では、“5+7”拍子というスペシャル・アレンジ(香取良彦)でハンコック・ナンバーにチャレンジした立教大学ニュー・スインギン・ハード・Oのクールな意欲が注目されたし、ハッピふうのコスチュームでエンターテイナーぶりも発揮しながらジャズの本領を全員がしっかりと心得ている大阪大学ザ・ニュー・ウエイブ・ジャズ・Oの場合は、しゃかりきにならない“ゆとり”が音楽の幅をとても大きく広げていた。その他の受賞校の中では、ミンガス・ナンバーにチャレンジしてTBSラジオ賞を受賞した法政大学ニュー・オレンジ・スイング・Oのリズム・セクションが非常に魅力的だった。特に女性ベーシスト(越川智子)の、ミンガスの奔放な音楽性に体ごと取り組んでいるようすから、全く自然に若々しいジャズの醍醐味が伝わってくるのは感動的でさえ合った。この場合にかぎらず、今回は特に印象を新たにしたのは女性のリズム、特にドラマーの進出だった。
受賞校ではないがトリを飾った国際基督教大学モダン・ミュージック・ソサエティの場合など、ドラマー(木暮真知子)を中心とするベーシスト(沖田さおり)、ピアニスト(富田美矢子)3者のコンビネーションによるリズムの“決まり具合”は抜群で、この女性リズム・セクションが送り出すジャズっぽさが、サックス・セクションの“うねり”とブラス・セクションの胸のすくようなメリハリを生み出していたのは高く評価されて良い。また優秀ソリストは別表(105頁)のとおりだが、前田憲男審査員が指摘していたように、関東より関西に“うま味”のあるソリストが多いという現象が今回特にハッキリ浮かび上がっていたのも興味深いことだ。
全体に毎回指摘されてきた、ホーンが鳴りきっていない。リズム・セクションがジャズの刻みを出していない。ダイナミックスが足りない‥‥など、ビッグ・バンドの基本的な問題点が相変わらず残り続けている。一部には、ジャズというものを全くカンちがいしているとしか思えないようなレベルの出場校があるのも事実だ。が、その反面、新しさを模索するジャズ最前線へのチャレンジ姿勢を明らかにするようなグループがじわじわと数を増してきているのも確かで、今回、初出場の東京理科大学S.U.Tオールスターズは7本のホーンにリズムはベースとドラムだけというスリムな編成で、最大の効果を出しきっていたのは、その最も身近な好例の一つではなかったろうか。そして前回まで、学生にあるまじき場馴れしきった放慢な態度を見せていた一部有名校のメンバーが、今回はガラリと変わってナイーブな若々しさを取り戻したのは何よりも喜ばしいことだ。
ともあれ、参加45校のミュージシャンとスタッフの労をねぎらい、さらにクリエイティブな来年のチャレンジを期待しよう!!
『スイング・ジャーナル』1993年10月号、226-7頁。
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